疾風迅雷・ピザ・バイク

土砂降りの雨が大地を殴り、烈しい雷が暗い空を粉砕し、人は癇癪を起こした子供をうんざりと見るような顔で足早に帰路を急ぎ、また実際に大気の鳴動すること幼い雷神が天上で泣き喚いているかのごとき凄まじさであった。

なす術もなく大雨と雷とに蹂躙されるばかりの住宅街の暗い細い道路を、私は明らかに雨量に対して心許ないサイズの折り畳み傘に縋って歩いていた。そこに新たな雷の音が轟いたかと思うと、アッと思う間もなく近付いて、次の瞬間、私の横を疾風の勢いで追い抜いて行った。雷鳴かと思われた轟音は雷鳴ではなかった、その姿は稲妻によく似ていたが稲妻ではなかった、それは、それこそは、

ドミノ・ピザのバイク

 

荒れ狂う風を切り裂き、叩き付ける雨粒をものともせず、漆黒の闇にテール・ランプをひらめかせ、なんぴとにも掻き消すことのできない力強いエンジン音を響かせて、猛スピードで駆け抜けて行ったのは、二つ並んだ四角形のロゴも鮮やかな、ドミノ・ピザのバイク。

そのバイクに乗る男(たぶん)の背中に思わず目を奪われた、物言わぬその背中が、かような悪天候にあって呑気に「ピザでも頼むかァ」と間抜け面でスマホをいじくり、彼をしてクワトロ・ミート・マックスだか、ギガ・ミートだかなんだかいったような高カロリー物体を運搬せしめているのであろう何者かへの、静かでありながらこの上なく苛烈な、苛烈でありながらこの上なく寡黙な、そして純粋な怒りを、体現していればこそ。

彼が雷鳴よりも疾く駆け抜けていった後の道路に一瞬美しい雨水の轍が残り、街灯を反射して煌めいた。ああ、気高いドミノ・ピザの人よ、どうかあなたになんか良いことありますように。