飲酒

絶望的に酒が弱い。これは遺伝だからどうすることもできないが、酒の味(と、わかったような書きぶりをしても、実際にはリキュールなど甘い酒か、ごく軽い日本酒しか飲めない)は好きなのに、度数5%でもグラスに2杯ものめば朦朧となるから、気軽に飲むことができず、極めて不本意である。

近所にSPY(タイの酒、ワインベースでジュースのように甘い)を出すタイ料理屋ができて、料理もタイの家庭の味という雰囲気で大変美味である。本当は一刻も早くその店でSPYを飲みまくりたいが、私は酔って居酒屋の、知らないおじさん達の席で勝手に寝ようとしたことさえあり、酔った私より実家の犬の方がよっぽど賢いくらいなので未だに躊躇している。堪えきれなくなると海外の酒を多数、扱っている酒屋にネット注文をして家で飲む。SPYはクラシックというのが一番美味しく色も華やかなコーラルピンクで、よく冷やしたこれに冷凍イチゴなぞ浮かべると六畳間に貴婦人の飲み物が爆誕する。

とはいえ最近はさほど頻繁に酒を飲まなくなってしまった。ごくたまに、何の脈絡があるわけでもないが今日は酒が飲みたいぞ!!という日があって、KALDIなどで買った安いサングリアを、緑色のガラスで出来た厚みのあるワイングラスに氷をどっさり入れた上に注いで、炭酸水でこれでもかと薄めて飲む。本当は薄めず飲みたいのだが薄めないとあまりにもすぐに酔いが回って楽しむ暇もないのである。

一時はモヒートもよく飲んだ。これは確か大学の時ホーガンの『内なる宇宙』に出てくる異星の酒があんまり美味しそうで、想像したのに近い色味の酒を買ったのが最初である。ミントとライムの味がついて売っている奴を氷(家で作ったのじゃない大きくて綺麗な氷)を入れたグラスに垂らしてちびちび舐めるようにして飲む。しかしこれもすぐに酔うので、大抵は冷たい水で薄めて飲んでいた。そういえばロシアに行った時ノンアルコールモヒートがよく売っていて、ケンタッキーなどのチェーンのメニューにもあるので驚いた。ミントシロップとライムジュースを炭酸水で割って、凝ったところだと本当のモヒートのように生のミントも潰して入れたものだがこれはどうにかして日本でもコーラやジンジャーエールと同じくらい普及してほしい。

酒を飲むとすぐ眠くなって寝てしまうが、寝る前のわずかな時間は大変気分がいい。ただし調子に乗って一息に飲むと即座に動悸と頭痛に見舞われ、到底楽しい気分になるだけの時間的猶予が残されないので、あくまで薄めた酒をちびちび飲むほかに選択肢がない。私は酒に強い人間が本当に羨ましく、自分も一度でいいから濃い酒をばかすか飲んで楽しく酔っ払ってみたいと切実に思うがこれは叶わぬ夢である。

この酒の魔力のとりわけ役に立つ時があって、私は絵を描くのが趣味だが絵というのはちょっと練習をさぼるとすぐ描けなくなり、描けない時には本当にもどかしい憤ろしい絶望的な気分になる。描けない描けないと泣きつく相手がいればまだましだが鳥しかいない。それでも結局描き続けることになるがこれは非常に苦しくアップルペンシルが20kgもある鋼鉄製に感じられる。そこで酒を飲む。酒を飲んでから絵を描くといつになく調子よくスラスラと楽しく描けるのだ。ただし集中力が続かない。それで早々に寝てしまってまた絵が下手になるのだから世話はない。