裏道

中学の頃は友達と一緒に市営バスで塾に通っていた。実家の周辺は南関東出身者にストリートビューを見せるとガチの「困惑」の表情が返ってくる山奥の過疎タウンなので徒歩圏内に学習塾などという未来に資する施設は存在しない。

で、時々、塾の最寄りから二、三手前のバス停で降りて、あとは歩いていくことがあった。コンビニに寄るためにそうすることが大半であったが、近所の神社にお参りをするためというのもあった。それはどういうわけかテスト前に限定して信仰心に目覚める我々が、誰からともなく提案した儀式であり、コンビニでコーヒー牛乳を買う代わりに賽銭を投げ、取ってつけた熱心さで祈りを捧げる。一度そうしてみると、次のテストの際もお参りをしなければバチが当たるような気がするもので、結局まあまあの頻度で夜中の神社へお参りをしてから塾へ行っていた。

神社から塾への道のりは大通りを一本だが、せっかくだから裏道を行ってみようと、これも誰からともなく言い出した。何せ山奥の者だから縦横に入り組んだ住宅地というのがまず物珍しい。人里に下りてきた野生の中学生には倦むことを知らぬ冒険心が満ち溢れていた。

大通りから一本入った裏道は車通りもなく暗いばかりの道である。なにか広い家や空き家や蔵やレンガ造の工場やの塀が並び、時折森のように大きい樹などが風に不気味な音を鳴らして立っている。そこを半ば肝試しのような気分でわいわいと歩いている時のことだった、ある建物の真黒い壁に、白いペンキでデカデカと、

「自然に帰れ」

そう書かれてあるのを見つけた。

その時はまだルソーを知らなかったように思う。誰の格言なのかもわからず、どんな思想を表すのかもわからないまま、ただ、私たちはその字を声に出して読んだ後、少し黙り、それから腹を抱えて笑ったのだった。

 

というめちゃくちゃ些細な思い出を急に思い出した。まじで何だったんだ